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「行ってきまーす!」
元気にあの子が駆けだして、黒いランドセルが白い雪の中に遠ざかった。住宅街の子供たちはみんな、久しぶりの大雪にはしゃぎながら、点から列へ。子供は元気だ。
活気が学校へ消え、大人たちも動き始める。
「今日は早く帰るよ」
あの人は急ぎ足で、でもそう言ってくれた。最近冷たくなってしまったかと思っていたけれど、あの子の漏らしてくれた秘密によれば、部屋の机にきれいなプレゼントボックスを隠しているらしい。
今日は私の誕生日。風邪をひいてしまったけれど、夜にはきっとよくなっているだろう。熱を持った体を冷えた玄関から引き上げる。洗い物はお昼にやろう。
そのまま私は部屋に戻り、布団の中へもぐりこんだ。エアコンに温められた空気が満ちた部屋に、カーテンの隙間から差す銀色の光以外に冬の気配はない。そのなかへ飛び出していった二人には少し悪いけれど、ぬくぬくとお昼から横になるなどいつぶりのことだろう。
あの人が枕元に用意してくれた薬を飲む。あの子が肩にかけてくれたカーディガンの袖に腕を通し、厚い布団に潜り込む。ドアの隙間から入ってきた気配がニャアと鳴いて足元へ這いあがる。
ゴロゴロと温もる足元から眠気に支配されてゆく。残った最後の意識で、部屋の明かりを落とした。
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