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アヴァ達は石で整備された道を歩いていた。とはいっても、人の行き来はない。道の外は草が茂っていたり、木が生えていたりはするものの、地面は荒れており遠くにも山が見える。アヴァは今まで住んでいた村の外に出るのは初めてだったが、気分の上がるようなものではないことを知り余計に憔悴した。
「お母様、まだ目的の場所には着かないの?」
「ええ、遠くにあるから。あの村は人が住んでいる町からは離れていたの。だからこそ、油断をしていたわ」
最後の方の声は、ひとりごとのように小さくなっていた。
「アヴァ、弱音を吐いちゃいけないよ。疲れたならおぶろうか?」
「ううん。まだ歩けるよ」
ブラムは2人を守るという義務感が生じたらしく、落ち着きと活力を取り戻していた。あるいは、そうでもなければ今にも崩れ落ちてしまっていただろう。
3人は昨夜から眠らずに歩いていた。正確には、眠れなかった。いつ、追っ手に捕まるかもわからない。ただ、アヴァだけは捕まればどうなるのか、まだ理解ができていなかった。死を知らないがために、怖いという感情だけで足を動かしている。
日が高く登り、遮るものもなく痛いほどの光を浴びていると、3人の体力はみるみる失われていった。足取りが重くなり、肩で息をするようになり始めた頃、クレシダは休むことを提案した。
「水とパンを食べて、それから眠りましょう。日が落ちれば、涼しくなるわ」
クレシダは自身の袋から水が入ったビンとパンを取り出し、アヴァとブラムがそれを渡される。2人は疲れた様子でゆっくりと食べ飲み切ると、やがて目を閉じた。
2人が目を覚ましたとき、まずはクレシダが目に入った。 そして、次に顔が褐色に焼けた若い男が目に入る。
「お母様、その人は誰?」
「旅人の方よ。用心棒として、町まで付き添ってくれることになったの」
「俺はディルって名前だ。よろしくな、お嬢ちゃん。それに坊主もな」
「よくわかりませんが、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
アヴァは寝ぼけ眼でお辞儀する。ブラムは、自分の領域を少し奪われたような気がして、少しぶっきらぼうになった。
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