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アヴァが目を覚ますと、まだ辺りは暗かった。昼に寝たせいで、こんな中途半端に起きてしまったのだろう。ブラムは彼女の隣で寝息を立てていた。
ぐるっと周りを見回してみると、母の姿もディルの姿もなかった。しかし、夜風にさざめく葉の音に紛れて、声が聞こえてきた。アヴァは母らの声だと思い、そちらへ向かっていった。
明かりが何一つない森の中ではあるが、星と月は静かに輝いていた。その光と闇に慣れた目を頼りに、足元に気をつけて歩いていると、彼女は2人を見つけた。
しかし、なにをしているのかがわからなかった。その行動自体は、理解できた。しかし、その行動の意味は理解ができない。彼女の知らない知識だった。そして、興奮する獣のような声に紛れて、ディルのハッキリとした声が届く。
「金がないのに守ってやってるんだ。ちゃんと楽しませろよ!」
ハアハアと乱れた呼吸音と目に見えるその行動に、アヴァは形にできない嫌悪感を覚えた。月明かりに一瞬照らされたクレシダの表情は苦悶であり、アヴァは心に研がれた刃が突き刺さるように感じた。頭の中がガンガンと叩かれるような痛みを感じ、足をよろめかせる。
パキッと小枝が折れる音が鳴った。
「誰!?」
鋭いクレシダの声と、その表情がアヴァにとっては怒られるときよりも怖く、その場を動くことができなかった。
「野生の動物だろ。気にすんな」
そして再開されたその行動を見ていると、アヴァはとうとうのどにヒリヒリとした痛みを感じた。そこでようやく体の感覚が戻り、ゆっくりと踵を返し途中から走り出した。
木の根元に黒々とした感情とパンの欠片を吐き出して、アヴァは寝床に戻っていく。頬を伝う涙が風に撫でられて、顔が冷たくなるのを感じた。早鐘を打つ心臓を止めようと胸を抑えながら歩き、穏やかな寝顔の兄を見て彼女はようやく安心した。
寝転がってブラムの手を握り、その暖かさを感じながらアヴァは再び眠りに就いた。
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