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「アヴァ、起きて」
揺すられた体の動きと、母親の声を聞いてアヴァは目覚めた。酷い悪夢を見たような気がしたが、思い出そうとすると頭が痛んだ。覚えているのは、ヒリヒリした喉の感覚と、暖かい手の感触と温度だけだった。頭の中にはモヤモヤしたなにかが渦巻いていて、不安も恐怖も嫌悪感もあった。
「お母様、大丈夫?」
「大丈夫よ。ちゃんと眠れたわ。ディルの話によれば、町まではもう少しらしいから急ぎましょう?」
アヴァは目を擦りながら立ち上がる。3人は既に準備を終えていた。
「お兄様、手を繋いでもいい?」
「なんだよ急に、恥ずかしいな。まあ、いいけど」
そっぽを向きつつもブラムは手を差し出した。アヴァはその手を握って、4人は歩き出した。
進んでいくと木々が消え、辺りはより荒れ果てていった。足元の舗装も悪くなっていく。
「アヴァ。俺たちは、生きるべきだよな」
「どうしてそんなことを訊くの?」
「夢に出てくるんだ。村の人たちが。母さんやお前を守らないといけないと思うけど、でも、あれが母さんのせいなら、俺たちは……」
太陽が2人の背中をジリジリと焼いていた。視線を影に落とすブラムを見て、アヴァが答える。
「わたしには、わからないよ。でも、まだ死にたくないもん。死にたくないから、生きたいよ」
考える力や体力が奪われているだけではない。アヴァは、どちらかといえば現状を深く考えたくなかった。どうしてこうなったのか、そう考えてしまえば、足が止まってしまう気がした。
「そっか。そうだな。なら、俺も死ぬまでアヴァを守るよ。もう、俺にできることなんて、それしかないから」
「うん!」
アヴァが笑顔で頷いと同時に、無数の足音が聞こえた。遠くの方に砂埃が舞っている。
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