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「家族を守るために必要だからでしょ。そりゃ、わかってるけどさ。だから俺も頑張れるし。でも、なにから守るのかなって。戦争は遠くの話なんだしさ」
「生きているうちに、なにが起きるのか予測することはできない。しかし、それに対処する力を身につけることはできる。だからこそ、今は力を身につけなさい」
「いまいち自覚が湧かないんだよね。まあ、いいけどさ。汗が気持ち悪いから、川で水を浴びてくるよ」
ブラムは再度、外に出て行く。ブラムは納得がいかないときに、頭を冷やしに近くの川へ向かう癖があった。家族は皆それを知っていたために、アヴァは風邪を引かないようにねと注意だけ送った。
「あと少しで料理ができるけど、ブラムは早く帰ってくるかしら」
「気にすることはない。剣術を教えていて気づくが、ブラムはかなりの速さで上達している。賢い子だよ」
「そう。きっと、あなたに似たのね」
「いや、クレシダ、君に違いないよ」
アヴァは笑い合う両親を見ていると、2人だけの世界という感じがして、なんとも言えない居たたまれなさを感じるのだった。しかし同時に、2人の間から確かに窺える絆に憧れもするのだった。
わたしにも、こんな風に心の底から信頼ができる人ができるのかしら。アヴァの頭をふと過るのは、オッドであったり、兄のブラムであったりするのだが、なんだか違うような気もするのであった。
彼女が半ば呆然と考えていると、突如として大きな音が静寂の世界を鋭く切り裂いた。カーンカーンカーンと、村に危機を知らせる警鐘の音だ。
「え? え? なに?」
「落ち着きなさいアヴァ。さっきまでの静けさから、災害が起きたわけではないだろう。そうなると、敵襲か」
テキシュウ。アヴァは、これまでに聞いたことのない言葉に、恐ろしさと緊迫感を覚えた。父親の鋭い眼光と、その中に見える淀んだ闇が、彼女をそうさせるのであった。
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