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3人の走るスピードには明確な違いがあった。やがてはクレシダがアヴァに追いつき、そしてブラムに追いついたとき、ブラムはその場に止まっていた。ブラムの姿を捉えたアヴァは不思議に思ったが、その先にある光景を目にして理解した。
彼女らの目の前は主戦場だった。そこは、元は子供の溜まり場にもなる村の入り口前の広場であった。しかし、今は違う。血を滴らせる剣を持った野蛮な男たちや、火矢を構えた男が何人もいた。
赤に塗れ倒れ伏してる者もいれば、炎の舌に絡め取られ悲鳴をあげている者もいる。それらは確実に、幼いアヴァとブラムが見ていい景色ではなかった。トラウマになりそうなその場面を、しかし瞼を閉じずに見たいられたのは、彼女らの父が戦っているからだ。
闇に紛れ、闇に乗じ、敵と思われる者たちが徐々に倒れ伏していく。他の村人も、中には鍬や包丁を持って立ち向かう者もいたが、リーチの違う剣に対しては腰が引けて戦力になっていなかった。平和慣れしていた村人なのだ、仕方がないことではある。
アヴァとブラムは呆然と立ち尽くしていたが、クレシダが動いた。アヴァを抱え、ブラムの腕を引っ張りその場から離れようとした。
アヴァは、抱えられながらも戦場から目を離せなかった。そして、ふと、敵の1人と目が合う。あ、気づかれた。なんの感情もなく、ただそう思った。
途端に1人の男がアヴァ達の方へ走り始める。アヴァの父親もその視線の先に気づく。旋風をを巻き起こしそうな速度で駆け抜け、男の腕を切り落とす。
「逃げろ!」
最も短いメッセージを、振り向いた彼が発した瞬間に、彼の時間は止まった。遠くから放たれた矢が、胸を貫いていた。
「あなた!」
全力で逃走を図ろうとしたクレシダも、立ち止まってしまう。まだ死を理解できないアヴァは不安そうでいて、不思議そうな表情を浮かべ、なにが起きているのかわかってしまったのであろうブラムは絶望の表情を浮かべた。
クレシダは倒れかかる夫を抱える。そして、素早く矢を引き抜く。
「ごめんなさい。でも、許して!」
クレシダは彼の心臓に両手を当てる。ブラムが駆け寄ると、アヴァもよくわからないまま釣られて駆け寄った。そこで母親の顔を見ると、青かったはずの両目は赤く染まり、そこからは涙が伝っている。
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