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「お母様、なんか変だよ?」
アヴァは声を掛けるが、クレシダの反応はない。他の村人は、最大戦力を失ったことに気づいたのか士気を失い、光のない目でクレシダ達の方を眺めていた。
「アイツだ! アイツを殺せば賞金が手に入るぞ!」
「お、お母様?」
アヴァは屈強な男たちが自分らの元に向かってくるのに気付いた。そして、クレシダの顔と手の先を交互に見る。手と触れた部分は光っていた。
そして唐突に、父親の目が開く。そして、上半身を起き上がらせた。
「クレシダ……済まない。奴らの狙いは君だ。逃げてくれ」
「ごめんなさい。いつか、こうなるかもしれないと思っていたわ。でも、あなたは?」
「私も覚悟をしていた。だからこそ、ここは奴らの足止めをする。2人を連れて逃げるんだ。早く!」
クレシダは頷くと2人を連れて駆けた。アヴァもブラムも目前の状況に理解が追いつかず、されるがままになっていた。
やがて、家の中に戻るとクレシダはアヴァとブラムに布製の鞄を渡した。
「2人とも、大事なものはこの中に入れなさい。もう、私たちはこの村にはいられないわ。外に逃げるわよ」
「どうして? お父様なら、あの人たちを全員倒してくれるよ」
「難しいわ。どれだけ強くても、数はそれを上回るの。アヴァ、わかってちょうだい。私たちが生きていくには、もう逃げるしかないの」
「でも、オッドや他の皆は? 私たちだけ逃げてもいいの?」
「ええ。2人とも、ごめんなさいね。……狙われているのは私なの。だから、私たちが外へ行けば、あの人たちも外へ追ってくるでしょう。だから、お願い!」
それ以上、アヴァはなにも言えなかった。まだ訊きたいことはあったが、これまでに母親からここまで強くお願いをされたことがなかったからだ。知識も経験も乏しいアヴァは、まだなにが起きているのか理解しきれていない部分もあった。
一方でブラムは、全ての思考をシャットダウンして、流れに身を任せていた。もう、なにも見たくない、考えたくないと、最悪な状況に置かれているとだけは理解できた彼は、いっそアヴァよりも深刻なダメージを受けていた。
「アヴァのお母さん」
3人が荷物を詰め込み、クレシダが2人の手を取って家の外を出ようとしたとき、そこにはオッドがいた。
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