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「さっき聞こえたんだ。この村にアイツらが来たのって、アヴァのお母さんのせいなのか?」
「……そうよ。ごめんなさい」
「なのに、逃げようとしてるの? 大人なら、セキニンってやつを取らないといけないんじゃないの?」
「そうね。だから、私たちは外へ行くわ。そうすれば、あの人たちもついてくるはずだから」
「でもさ、元々アヴァのお母さんがいなければ、こんなことにはなってなかったんだろ? 親父が、大火傷することもなかったんだろ!?」
アヴァはオッドの手に目がいった。煤で真っ黒になっている。あげた指輪も、ところどころ燃えた跡や煤で黒く染まっている。
「そうだったの……。本当に、ごめんなさい。私には、謝ることしかできないわ。だから、通して」
クレシダは声を頑なにして、扉の方へと向かう。外へ出ると、何人かの村人がいた。
「俺は見たぞ。心臓を矢が貫いて殺されていたのに、お前が手をやったら復活したんだ。化け物に違いない!」
「アイツらは化け物を殺しに来たんだろ? 俺たちは巻き込まれたんだよ!」
村人の男たちが、口々に言う。得体の知れない恐怖に駆られ、脅威に怖気付き、誰かに責任や非を押し付けようとするその行為は、仕方のないことであるのかもしれない。
「化け物! 早く出ていけ!」
そう叫んで、1人が石を拾い投げつけた。そして、それを皮切りにして、追随するように他の者も罵声を浴びせ、落ちているものを投げつける。
クレシダは危機を察知し、2人の子どもを連れて走り出す。子どもらも現状の危険さを本能的に感じ、走り出した。
「絶対に、許さない」
今までに聞いたことのない低い声に、獣のようなギラギラとした目。アヴァは、家族以外で最も信頼していた友達から向けられた憎しみの表情に、後戻りのできない恐ろしさを感じた。彼女は生まれて初めて、殺されると、危機感を覚えたのだった。
こうして彼女らは、父親を置いて味方がいなければあてもない旅に出ることとなった。振り返ればそこには、黒煙を立ちのぼらせる崩れた思い出が転がっているだけだった。
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