魅惑のデザート

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「身体に無理のないように、ほどほどにしてくださいね」 会社まで送ってもらい、車を降りると私はドアから中を覗き込んだ。 「今日の小野田はよくしゃべってたな」 「え?」 私の問いかけへの返事ではない。 私は一瞬混乱した。 「ええ……今日は……よくお話しになってましたけど」 実は彼とあんなに話したのは私も初めてだった。 「それが何か?」 「酒は飲まれない程度に飲むから心配ねーよ」 またしても話がかみ合わないが、平然と対応するのが秘書の務め。 「……はい。では、お疲れ様でした」 私がドアを閉めると車は低いエンジン音を引きずって発進した。 彼の車が見えなくなるまで見送ると、私はガラス扉をくぐり、受付嬢のいなくなったカウンターを通り過ぎてエレベーターに乗り込んだ。
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