魅惑のデザート

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窺った碧斗の表情が変わらないまま私たちは別のスタッフに案内され、お互いにほとんど仏頂面でテーブルに着いた。 碧斗が先に座り、私は碧斗の向かいで引かれた椅子ではなく、自ら碧斗の隣に腰を下ろした。 「小柳さんて、いつもその位置だよね? 向かいに座ればいいのに」 デザートのプレートを持った小野田さんが言った。 「ここが私の定位置なんです」 「碧斗の隣が?」 「いえ。正しくは社長の右一歩後ろです」 向かい側などには座れない。 それに、今は碧斗の不機嫌な顔など見たいくないのでこの位置がちょうどいい。 私が正しい表現で言い直すと、小野田さんは微笑みながら「そっか」と頷き、私たちの前にプレートを置いた。 「綺麗……」 彼がプレートから手を離した瞬間、私は身を乗り出し、 彼の手の陰から現れた色鮮やかなデザートにくぎ付けになった。
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