351人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんな話があるんだよ。だから、芹香、頼みがあるんだけど」
彼は胸の前で手を合わせた。
私に何かを頼むときの仕草だ。
この場合の要件はわかっている。
私が返事をせずに視線を落とすと、彼は構わず続けた。
「化粧品の販売だろ? だから売る側の俺自身が清潔感がなきゃダメだと思うんだ。だから……スーツ、新しく買いたいんだ。もちろん、すぐに返すから。ほら、だって、これだから」
どこかで聞いたことのある台詞だと思っていると、
彼は再び財布の中身を私に見せた。
私は彼の方を見ようともせずに顔を背けた。
最初のコメントを投稿しよう!