彼の弱点

14/35
前へ
/35ページ
次へ
「そんな話があるんだよ。だから、芹香、頼みがあるんだけど」 彼は胸の前で手を合わせた。 私に何かを頼むときの仕草だ。 この場合の要件はわかっている。 私が返事をせずに視線を落とすと、彼は構わず続けた。 「化粧品の販売だろ? だから売る側の俺自身が清潔感がなきゃダメだと思うんだ。だから……スーツ、新しく買いたいんだ。もちろん、すぐに返すから。ほら、だって、これだから」 どこかで聞いたことのある台詞だと思っていると、 彼は再び財布の中身を私に見せた。 私は彼の方を見ようともせずに顔を背けた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

351人が本棚に入れています
本棚に追加