351人が本棚に入れています
本棚に追加
そう思った私だったが、頭には別の考えも浮かんでいた。
今まで……
私が気が付いていなかっただけ……?
けれど、その考えはすぐに自分で否定した。
そして、その思いを振り払うように口を開いた。
「この店、初めて来たけど……値段、大丈夫?」
いつも智が誘ってくれるような煙った居酒屋とは違い、おしゃれなダニングバーだった。
私もこういう店には友達と訪れることがあるけれど、一食でそこそこの金額はするものだ。
「大丈夫だって。たまには芹香もこういうところ来たいだろ? ほら、飲もうよ。仕事上がりのビールって旨いんでしょ?」
「うん、まあそうだけど……」
私の返事の途中で智は店員を呼んだ。
「生ビールとウーロン茶」
「智!? 飲まないの?」
彼の注文に思わず横やりを入れてしまった。
「俺、無職の身だし、芹香と一緒に飲むってわけにいかないからさ」
最初のコメントを投稿しよう!