彼の弱点

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そう思った私だったが、頭には別の考えも浮かんでいた。 今まで…… 私が気が付いていなかっただけ……? けれど、その考えはすぐに自分で否定した。 そして、その思いを振り払うように口を開いた。 「この店、初めて来たけど……値段、大丈夫?」 いつも智が誘ってくれるような煙った居酒屋とは違い、おしゃれなダニングバーだった。 私もこういう店には友達と訪れることがあるけれど、一食でそこそこの金額はするものだ。 「大丈夫だって。たまには芹香もこういうところ来たいだろ? ほら、飲もうよ。仕事上がりのビールって旨いんでしょ?」 「うん、まあそうだけど……」 私の返事の途中で智は店員を呼んだ。 「生ビールとウーロン茶」 「智!? 飲まないの?」 彼の注文に思わず横やりを入れてしまった。 「俺、無職の身だし、芹香と一緒に飲むってわけにいかないからさ」
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