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「でも、言ってはいけない言葉ではあるわね。わざわざ持って来てくれた人には、まず『ありがとう』と言うべきでしょ」
「……そうですね」
部屋の奥にいる望海に聞かせるように言った安部さんの言葉に、明里は頷いた。
たとえ不満があっても、まず先に出るのはお礼の言葉でないといけない……建前と言うやつである。
「栄養士の子が、理事長先生に言うかもしれないけれど、まあ、その時はその時ね」
けれど、安部さんも同じ気持ちではいるのだ。
「とりあえず、今日はマヨネーズがありますから、いつもよりもマシにはなります」
そんな安部さんに、明里は言った。
「そうなの?」
「はい」
聞き返して来る安部さんにこくんと頷くと、明里は受け取ったゆで卵を持って、二階へと上がった。
二階では、パートの谷(たに)さんが遊んでいる子ども達を見ていた。
「またゆで卵?」
「えーまたあ?」
谷さんと折り紙をしていた低学年女子達は、口々に不満を訴える。
高学年の望海よりもまだ素直な低学年女子ですら、この様である。
そりゃまあ、三日と開けずにゆで卵が出るのだ。無理もない。
「文句言わないの。せっかく準備してもらったのに」
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