第二話 骨まで愛して

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「どこに引っ越したかはわからないなぁ。でも少ないお金で事業を起こして、それが成功したって聞いたことがあるよ」 「その人のお名前は?」 「風間さん。風間春彦さんだよ」  男性はそう言うと、バイトがあるとか言ってその場を後にした。二人は丁重にお礼を言い、彼を見送った。でも二人の心はここにあらずといった感じである。まさか、最初に話しかけた人だけでしゅんぷうさんの正体がわかってしまうなんて思ってもいないことだった。もうこの奇跡に感謝するしかない。  茫然とした表情の二人。最初に口を開いたのは結だった。 「風間春彦さん……その人物で間違いないですよね?」 「ハンドルネームから考えても、間違いなさそうだね」 「しゅんぷう、春風……自身の名字と名前からとったみたいですね」 「名前と年齢さえわかれば、あとは上に問い合わせればいいだけだ。年齢は矢野さんから聞いているし大丈夫だな。でも見つけようと思えば、意外に見つけられるもんだね」 「本当ですね」  こうして幸子の心中相手が見つかった。アパートの男性の話からもわかるように、どうやら風間は生きているようだ。しかも事業が成功しているらしい。風間は幸子のことを忘れたのだろうか。そしてのうのうと生きているのだろうか。  結はその事実に胸の痛みを覚える。あの幸子の寂しそうな顔がよみがえってくる。どんな事実でも知りたいと彼女は望んだが、これからわかる事実をどう受け止めるのだろう。結には想像も出来ない、そんな結末が待っているような気がしてならなかった。
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