第二話 骨まで愛して

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       6  そこは高級住宅街。成功者のみが住める街である。右を見ても左を見ても、大きな家ばかり。家の前に止めてある車も高級車ばかりである。住宅街の緩やかな坂をのぼりながら、結は己の家とつい比べてしまう。もうここまでくると、比べること自体馬鹿げているのだが、やはりこの格差に理不尽さを抱かずにはいられなくなる。  今日は日曜日。天気もこの季節には珍しく晴天である。大人も子供も休みのはずだが、結たちが住む場所と違って上品な空気が流れていた。子供の遊ぶ声さえも聞こえないのだ。上品という言葉を使ったが、逆に空虚な印象を受けてしまう。  洋館での白骨遺体発見から一週間以上が経過していた。結はあれから新聞を欠かさず見ているが、続報が掲載されることは無かった。ゆえに身元や死因などの詳しい情報は、まだ表だって出ていない。少し心配になるが、日本の警察は思っているよりもしっかりしているはずだ。近いうちに新聞に出ると結は思っていた。  坂を上りきると、結たちが住む町が見下ろせる。これも成功者の証なのだろう。結はもう何も思わないことにした。そして隣にいるシキは、初めから何も思っていないことだろう。  二人がここにやってきたのは、幸子の心中相手と思われる風間春彦に会うためである。成功者らしくここに住み、さらに妻と一人の娘がいるそうだ。この情報がわかったときの結の気持ちは、言葉には言い表せられないほどのものだった。悲しみ、怒り、苦しみ、それらの感情が混ざり体内で渦巻くのを嫌でも感じたほど。シキでさえも心苦しかったのか、しばらく何も話さなかったぐらいなのだから。結には、風間がどういう神経をしているのか想像も出来ないし、きっと理解さえできないだろう。  その風間が住んでいる家が見えてきた。この間、二人は言葉を交わすこともしなかった。重苦しい思いが、口を開くことを拒んでいるかのようだった。  そのとき、風間の家から一人の男性が出てきた。きっと風間本人だろう。玄関の奥さんに手を振っているのか、笑顔で家の方に顔を向けている。肩にはゴルフバックがあったので、ゴルフに出かけるようだ。幸せそうな家庭が目の前にある。それに対して、結の本音が思わず漏れてしまう。 「幸子さんのこと、完全に忘れてしまったんでしょうか?そうでもなきゃ、あんな笑顔出るわけありませんよ」
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