第二話 骨まで愛して

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 自分の肩を抱く風間。血の気の失せた顔に加え、目には涙が浮かんでいる。でも彼の口からは、幸子のための言葉が一つも出ない。 「怖くなって俺は逃げた。確かに逃げたし、このことを忘れようとした。警察に言うのが普通かもしれないが、犯罪者になるのはごめんだったんだ。前科がつけば、この社会では生き生きていけないのは知っているだろ!」 「最近、あの洋館で白骨遺体が見つかったのは知っていますよね?知らないわけはない。でも、あなたは黙ったままだった」 「当たり前だろ。今までばれなかったのに、どうして自分から白状しなくちゃいけないんだ。俺には守らなくちゃいけない家族や社員がたくさんいるんだ。あの頃とはまたわけが違うんだよ!」 「はぁ~あなたは全部自分のためなんですね……」  救いようのないバカを見る目、それを風間に向けるシキ。風間はもう開き直ったのか、それがどうしたといわんばかりの表情だ。  結にはもう風間の言葉は聞きたくないし、その姿も視界に入れたくなかった。嫌悪感で自分の体が埋め尽くされそうになる。このまま黙っていたら、結の体は負の感情でいっぱいになりそうだった。それを少しでも吐き出すために、ここで結は自分の想いを口にする。 「遺体が見つかった今、警察はすぐにあなたの存在にたどりつくと思います。日本の警察はまぁまぁ優秀ですから。風間さん、あなたは矢野幸子さんと言う一人の女性の命を奪ったんです。たとえそれが自分の本意ではないとしても、その事実は変わらないんです。人の命は重い。必ず罪を償わなければいけない日が来ますから」  それだけ言うと、結はシキの後ろに隠れた。風間の姿をシキの体で隠す。感情が少し落ち着いた。深く息を吐く結。シキも風間に追い打ちをかける。 「彼女の言うことは正しい。あなたは必ず捕まります。今、自首した方がいくらかマシな気がしますけど、どうですか?」 「ふざけるな。そんなのおこと……うわぁ」  風間が急に叫び声を上げ、しりもちをついた。明らかに怯えている。視線はシキたちの後ろの方に注がれていた。二人は風間の視線の先に目をやる。
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