第二話 骨まで愛して

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 そこにいたのは幸子だった。黄色のワンピースで腹部は赤く染まっている。出会った時と同じ姿でそこに立っていた。それに結はもちろんシキも驚いている。でも一番驚いているのは風間だろう。腰が抜けたのか、しりもち姿のままで後退りしようとしているが、全然進んでいない。幸子の方はというと、徐々に風間との距離を詰めている。  笑みを浮かべながら徐々に風間に近づいていく幸子は、まさにホラーであった。 「ど、どうして……く、来るな!来ないでくれ!」  無様な声を上げる風間を見下ろす幸子。笑みを浮かべたまま何も言わず、ただただ風間を見つめるだけだ。  結には何が何だかわからなかった。風間は幽霊が見える人なのか、それとも……理解に苦しむ状況に、結は成すすべなくその様子を見守るしかなかった。しかし、シキはそうではないようで、この状況を大いに利用したのだ。 「おやおや、矢野さんが化けて出てきたようですね。そりゃあ、化けて出てきたくもなりますよねぇ。自分は死んでいるのに、あなたは幸せな家庭を築き会社も成功している。それは不公平ですよ」  ニヤニヤ笑うシキとずっと微笑んでいる幸子。二人の視線をいっぺんに浴びている風間は、もはや半狂乱の状態だった。自業自得だと思うが、見ている結は風間に一ミリぐらいは同情を抱いてしまう。それほど今の彼は見るに耐えない姿であったのだ。 「ゆ、許してくれ……わ、悪かった。本当に悪いことをした」 「風間さん、いつかはあなたのもとに警察がやってくるでしょう。でもそれがいつなのかはわかりません。明日かもしれないし、一か月後かもしれない。もしかしたら一年後という事もあり得る。このまま自首しないのも、確かに選択肢の一つかもしれません。警察が来ない可能性もゼロではないですから」 「な、何が言いたい……?」 「自首して輝かしい人生を終えるか、ゼロに近い可能性にかけて黙っているか……好きな方を選べばいい。ただし、このまま黙っていたら矢野さんはあなたを許さないでしょうね。このまま矢野さんはあなたのそばにいて、呪いの言葉を吐き続けるでしょう。それでもいいなら、ご勝手に」
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