第二話 骨まで愛して

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「本当にありがとう。私のためにここまでしてくれて。二人に会えて本当に良かった。再び会える日を楽しみにしていますね。さようなら」  笑顔で手を振る幸子に、結も笑顔で振り返す。シキも手を上げそれに答えた。そして幸子の姿は完全に見えなくなった。二人は自然と青空へと目をやる。いわし雲が浮かぶ、それはそれは美しい秋空だった。  しばらくして二人は再び歩き出した。幸子の笑顔でようやく温かな気持ちになれた結。それでも未だ引っかかるのは風間のことだ。どうしても彼の行動や神経が理解できない。完全に理解することは無理なのはわかっているが、それでも結の常識の範疇を超えているのだ。命を、一人の命を奪っておいて……  結がハッと我に返ると、シキが心配そうに顔を覗き込んでいた。ものすごく怖い顔をしていたのかもしれない。恥ずかしさから、少しシキから目をそらしつつも、結は自分が抱く疑問を口にする。シキなら納得できる答えをくれるかもしれない、そんな希望を抱きながら。 「私、どうしても理解できないんです。幸子さんの命を奪っておきながら、今まで普通に生活していたのが。普通ならそんなこと出来ないはずじゃないですか?命は重いはずなんです……重たくのしかかってくるものなんです……」 「市川さんはその重さを十分に理解している。僕もそれはよくわかっているつもりだよ。でも市川さん、普通って何かな?それは市川さんの中での普通であって、他の人には普通じゃないのかもしれないよ。まぁ少しオーバーな言い方かもしれないけど、そういうこともあるよね?」 「で、でも……」と戸惑う結。 「確かに命に関しては、大勢が同じ認識かもしれない。命はとても大事で重いものだ。それが普通だし、風間は少数派だったのかもしれない。その当たり前のことで一つ、どの命も平等だと思うかい?今回はそういう事なのかもしれないよ。彼だって毎日罪悪感はあったかもしれないし、逆に何とも思っていなかったかもしれない。こればかりは他人には分からない。でも、前者と後者の差は何だと思う?その人の考えや想いで、ものさしは変わってしまうんだよ」
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