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その物体を発見したのは昼過ぎのこと。なぜここに?それが、シキが最初に抱いた感想だった。戸惑うシキに対して、その物体はお構いなしに近づいてくる。
あぁ、目が合ってしまった。その物体、白いモフモフとした体に四本足。口はハッハッと開き、ピンク色の舌が顔をのぞかせている。お尻についているしっぽを、ぶんぶんとはち切れんばかりに振っているではないか。
そう、シキの目の前にいるのは犬。白い毛をした一匹の犬だった。
「どこからやって来たんだ?というか、君は……」
シキの言葉を遮るように、玄関から音がした。玄関ドアが大きく開かれ、いつもの彼女がそこに立っていた。そして白いモフモフを確認するやいなや、全速力でその犬のもとに駆け寄る。
「うわぁ~かわいい。モフモフだぁ~」
とびっきりの笑顔で犬を撫でる結。犬も嬉しそうで、結のほっぺたをなめる。女子高生と犬、なかなかに最強の組み合わせではないか。シキも思わず頬が緩むが、今はそう和んでいる場合ではない。問題はこの犬の存在だった。
「市川さん、癒されているところ悪いんだけど……」
「あぁ~かわいいよぉ。シキさんも触ってあげてくださいよ」
「いや、僕は犬はちょっと……」
「犬、苦手なんですか?」
ありえないという顔をする結に、シキは苦笑いを浮かべる。だが、シキは苦手というわけでは無いようで……
「犬って、人間に媚び過ぎていると思わないかい?獣としてのプライドはないのかなって。それに比べると猫は、まだましだよね。自己中だし、人間のことをエサをくれる同居人ぐらいにしか思っていない」
「そ、そこですか?犬はそこがいいんだと思いますよ。忠誠心とか、人のためにって感じが素晴らしいと思うんですけど」
「でも、この好き好き光線は重いと思わない?」
そう言って犬を指さすシキ。ウルウルした瞳に、嬉しさ爆発中のしっぽ。好きですオーラを出しまくっているのも確かだった。
(犬好きはそこがいいんだよね……もうそこが嫌って言ったら話にならないような……)
犬の存在意義を否定するシキに、結はもう何も言えなかった。でも動物が嫌いっていうわけでもなさそうなので、結はもうこの話は置いておくことにした。
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