俺と美麗様とローストビーフと。

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「そんな落ち込まなくてもアナタはすごく綺麗ですから。 絶対、次にいい男性にめぐり合えると思いますよ」 「……」 「……」 会話が続かない。 「もしよかったら、俺なんてどうです?はは」 めげずに冗談交じりに話す。 「……」 「……」 でもやっぱり、会話は続かない。 そんな時、美麗さんはできたての炒り豆腐を持ってカウンターへ戻ってくる。 「これ、サービス。夜遅くだし、これくらいなら食べやすいでしょう」 美女の前にコトリと置く。 たまごと鰹節と豆腐だけのシンプルなものだったが、立ち上る湯気と香りが食欲をそそる。 「……」 「わざわざ負けたなんて報告しなくてもいいのに。 でもそういう義理堅いところ、私は嫌いじゃないわ。充分、良い女よ」 「う、うぅ。ありがとう、ございます」 美女は涙を流しながら炒り豆腐に箸をつける。 「コレ、美味しいです」 一口食べて、ポツリと呟く。 「でしょう?」 「……ふふ。自分で言っちゃうんですね」 涙を流しながら、美女は微笑んでいた。 「私、アナタみたいに自分のことを褒めることはできない。 だけど、アナタみたいな人に良い女だって言われたのなら、少し自信がもてるような気がしてきました」 「それはよかったわね」 それから美女は数品を注文して帰っていった。時刻は23時半だった。 「もうお客さんもこないでしょ」 美麗さんは店外にかけてある木札を“CLOSED"に変えて、片付けに入る。 俺もだいぶ慣れてきた片づけ作業へと入る。 「にしても、アンタってモテないでしょ?」 「ふぇ?」 急に、モテないと決め付けたかのような問いが美麗さんから飛んでくる。 「まあモテませんけれど……」 実際、モテないし言い返せないのが悔しい。
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