俺と美麗様とローストビーフと。

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「すみません。あの、お片づけは終わられましたか?」 扉を開けて入ってきたのは例の美女。 こんな遅くになっても、レシピを教わるために再度店に足を運んできたのである。 「いらっしゃい。 終わってないけど、あとはもふおがやるから大丈夫よ。さ、座って」 ――それ、大丈夫なのか? 「で。 こんな遅くになってまで、そして何でもしてまで作り方を知りたい理由って何?」 美麗さんもカウンター内に座り、話を始める。 残りの片づけをするつもりはまったくないようだ。 「私、このローストビーフを彼氏のために作りたいんです」 美女は切羽詰ったような、あせりを感じるような目で美麗さんを見つめる。 「ふーん。 それならネットとかでローストビーフの作り方を調べればいいじゃない。 わざわざ“このローストビーフ”じゃなきゃいけない理由を私は聞いてるの」 「……」 「……」 黙りこんでしまって、店の中には俺がせっせと片付けをする音だけが響く。
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