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「なんでもするつもりでレシピを聞きに来たんじゃないの?
それなのに理由を言うくらいもできないのかしら」
呆れ顔の美麗さんはハァっとため息をついて席を立とうとしていた。
「……実は彼氏には私以外にもう1人、彼女がいるんです。
それで彼氏が“俺のためを考えて料理を作ってくれたほうと結婚する”って言うんです」
レシピを教えてもらえないと察した彼女はぽつりぽつりと言葉をこぼし、うつむきながら理由を説明する。
こんな綺麗な人がいるのにまだ他にも彼女がいるだなんて、なんて贅沢でうらやま……けしからん!!
「へぇ。それで?」
「彼、食事はいつも外食なんです。
だからデートのたびに彼の好きな店に色々と連れて行ってもらってるんで彼の食の好みもだいたいわかるんです。
彼の好きなものは肉――特に牛肉はよくオーダーしています。
だから私は彼が喜んでくれるような美味しい牛肉料理を作りたいと考えていたんです。
でも、外食で舌の肥えた彼を喜ばせるにはお店以上のものを作らないといけない。
そんなとき、今日ここでローストビーフを食べたときに衝撃を受けたんです。
余分な脂身もそぎ落とされていて、下味もしっかりとついたお肉。
そのお肉の味をさらに引き立たせる、まろやかなソース。
今まで食べたどのローストビーフよりも美味しかった。
それにすごく彼好みの味付けでこれなら絶対に満足してもらえる。
そしてもう1人の女にも絶対に勝てる!と思ったんです。だからレシピを教えて欲しくて……」
俺はじゃがいもスープのほうが美味しいと思ったが、そんなことをいう雰囲気ではないし、俺の味の好みなんて誰も興味はないだろう。
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