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俺は空気を読んで、黙って片付けをする。
男の奪い合いに勝つためにレシピを知りたいだなんて。
そんなことをしなくても彼女なら女性としての魅力にあふれているように見えるのに。
「ま。そんなにローストビーフが美味しかったっていうのなら教えてあげるわよ。ふふ」
美麗さんはまんざらでもなさげな顔をしていた。
きっと料理人として褒められたことが嬉しいのだろう。
性根は悪いが分かりやすい人でもある。
「で。ローストビーフの付け合せは何にするつもりなの?
今の季節なら新たまねぎのオニオンスライスとか、アスパラのグリルなんかもいいわね」
「いえ、付け合せはいりません。彼は野菜が嫌いで食べないんです」
「……そう」
嬉しそうにしていた表情が一変、美麗さんは少し寂しそうな表情を浮かべた。
「……それならローストビーフだけでいいわね。じゃあ、作り方教えてあげる」
「ありがとうございます!」
「そのかわり、何でもするんでしょ?
材料費と指導代として5万。それでどう?」
「5万円、ですか……。わかりました」
5万という値段に一瞬躊躇したようだが、美人は承諾していた。
「それともう一つ。
そのもう1人の彼女との料理勝負に負けても私のせいにしないでね」
美麗さんは真顔で彼女に失礼なことを言い放つ。まるで負けを予想しているかのような……。
「もちろんです。負けてもアナタのせいにはしません。
でも、そもそもそんな心配はいりません。私は負けませんから。
このローストビーフはそれほど美味しいと思ったんです」
「わかったわ。じゃあこっちにいらっしゃい」
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