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それから美麗さんは彼女をキッチンへと誘い、ローストビーフとソースの作り方を教えていた。
美麗さんにしては丁寧にきちんと、そして優しく教えていたのだ。
俺に対しては「見て覚えろ」くらいの適当な指示で仕事を覚えさせたのに。
お金を受け取る、というのはそういうことなのだろう。
俺はまた残った片付け作業にとりかかる。
10分、20分、30分――
片付けも終わり、残ったジャガイモのスープをいただいているとキッチンから「以上。あとは家で自分で作ってね」という声が聞こえていた。
「ありがとうございます!このご恩は忘れません」
美女は5万を美麗さんに手渡し、店から去っていった。
「今日は遅くまでお疲れ様。あんたも帰って良いわよ」
美麗さんはそう言いながら、裏口の鍵を閉める。
「はい。お疲れ様です」
俺も帰る支度をして自分のカバンを手に取る。
終電はもうない。ネットカフェで泊まるか――
「そういえば美麗さんはどうやって帰るんです?終電ないですよ」
「どうやってもなにも。この2階が家だし」
「え?上……?」
「そうよ。階段を上がれば家だけど、アンタには階段の場所は教えない」
フンと鼻を鳴らす美麗さん。
俺はまったく信用されていないようだ。
「ところでアンタはどうするのよ。終電ないんでしょ。
タクシーで帰るにしても、こんな安給料じゃ乗れないでしょうに」
「……」
その安給料で雇ってるのはあなたなんですが。
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