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「もしよかったらここで寝ていってもいいわよ」
そう言いながら、美麗さんは店の奥にある”Staff Only”と書かれた扉をあける。
「ここって……?」
「従業員用仮眠室。これくらいあれば泊まれるでしょ」
開けられたのは4畳半ほどの小さな部屋。
そこにはベッドと机、テレビの3点だけが置かれていた。
「終電がなくなることもあるからね。そういうときはココを使ってくれたら良いから。
近くに朝までやってる銭湯もあるし好きなように過ごしなさい」
「……やっぱり、一泊1万とかとるんですか?」
「バーカ。そこまで金の亡者じゃない。そんなこと言うなら部屋貸さないわよ」
美麗さんはStaffOnlyの扉を閉めて、鍵をかけようとする。
「わわわっ!ごめんなさい!有難く使わせていただきますー!」
「それでいいのよ。はじめから素直に頭下げてりゃ良いの」
「本当、ありがとうございます。このご恩は忘れません。ははー」
深々と頭をさげる。美麗さんはこの店の主。俺は城主に従う足軽なのだ。
「ご恩は忘れません、ねぇ……。さっきも聞いた言葉」
小さなため息とも吐息とも取れる息が美麗さんの口から漏れる。
さっきも聞いた……?ローストビーフを教わった美女が言ってたような?
「彼女、きっと勝負に負けるわよ。
相手がどんな料理を出すかにもよるけど、ローストビーフじゃ勝てない。
それなのに恩なんて覚えてないでさっさと忘れててほしいわ」
そういえばさっき美女がいたときも美麗さんは負けるようなことをほのめかしていた。
どうして、そう思うのだろうか?
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