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「美麗さんのローストビーフはとても美味しかったですよ。
それに、あんな綺麗な人がローストビーフなんて作ってくれたら男なら一発で落ちますって」
「ま。アンタの場合は美人なら何作っても落ちるでしょ。
でも、あの女の彼氏は違う。
野菜嫌いの肉好きでご飯はいつも外食。
きっといつも美味しいものを食べてるんでしょう」
「そうかもしれませんけど、美麗さんのローストビーフは確かに美味しいですよ」
「当然。私が作ったんだから美味しいわよ。
でも、あの女の彼氏は“俺のことを考えた料理”って言ったんでしょ?
私が作るのはお店でお客さんに提供する“外食の料理”。
特にお酒がすすむために作ってあるから味付けだって濃い目につけてる。
でも、そんな料理を毎日、毎食食べてたらどうかしら?」
「あっ……」
確かにそうだ。まかないで食べる料理は確かに濃い目でご飯がすすむ。
でも、そればっかりだと……。
「料理には2つの役目がある。
美味しさで幸せを感じるために食べること。そして身体の健康のために食べること。
いつも外食ばかりの彼なら栄養も偏ってるでしょう。
そんな彼が言う“将来の嫁になるため、俺の事を考えた料理”。
きっと料理の2つの役目、どちらも落とせない。
彼女はロースロビーフに添える野菜すらつけなかった。
彼のためを考えるなら、好きな食材じゃなくて、栄養バランス重視でいくべきだったわね。
料理も一生懸命覚えていたけれど、残念だわ」
「それで美麗さんは負けるって言ってたんですね」
「えぇ。でもまぁ、負けていいんじゃない?
女を争わせて嫁を決めようなんて男と結婚してもろくなこともないでしょう」
そう言って美麗さんは俺に軽く手を振る。
「今日は遅くなったし、早く寝なさいよ。じゃあおやすみ」
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