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その日から数日後の閉店間際。
暗い表情をした、あの美人のお客さんが1人でまた店の暖簾をくぐってきた。
頬も少しこけてその表情から幸せは一切感じられない。
「あら、いらっしゃい。どこでもあいてるから好きなところどうぞ」
美麗さんがカウンターから声をかける。
今日は一日、天気が荒れていた。大雨に猛烈な風。
そんな日にお客さんがたくさん来るというわけもなく、店には他に誰もお客さんはいなかった。
「先日はありがとうございました……。今日はそのお礼を言いにきました」
力なく答え、美女はペコリと頭をさげる。
「お礼だけじゃなくて何か食べていきなさいよ」
「すみません」
カウンターにポツリと座るその姿から以前のような華は感じられなかった。
「前に教えていただいたローストビーフなんですが、勝負に負けてしまいました……」
美麗さんの予想通り。そして今の見た目通り。
彼女は傷心のまま律儀に結果を伝えに来たのだ。
「そう」
無愛想に美麗さんは答えるとそのままキッチンで料理を始めた。
まだ、オーダーも聞いていないのに。
「私の何がダメだったんでしょうね」
ポツリと呟く美女。
美麗さんはキッチンに行ってしまったので、彼女を慰めるのは俺の仕事になりそうだ。
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