俺と美麗様とローストビーフと。

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*** その日から数日後の閉店間際。 暗い表情をした、あの美人のお客さんが1人でまた店の暖簾をくぐってきた。 頬も少しこけてその表情から幸せは一切感じられない。 「あら、いらっしゃい。どこでもあいてるから好きなところどうぞ」 美麗さんがカウンターから声をかける。 今日は一日、天気が荒れていた。大雨に猛烈な風。 そんな日にお客さんがたくさん来るというわけもなく、店には他に誰もお客さんはいなかった。 「先日はありがとうございました……。今日はそのお礼を言いにきました」 力なく答え、美女はペコリと頭をさげる。 「お礼だけじゃなくて何か食べていきなさいよ」 「すみません」 カウンターにポツリと座るその姿から以前のような華は感じられなかった。 「前に教えていただいたローストビーフなんですが、勝負に負けてしまいました……」 美麗さんの予想通り。そして今の見た目通り。 彼女は傷心のまま律儀に結果を伝えに来たのだ。 「そう」 無愛想に美麗さんは答えるとそのままキッチンで料理を始めた。 まだ、オーダーも聞いていないのに。 「私の何がダメだったんでしょうね」 ポツリと呟く美女。 美麗さんはキッチンに行ってしまったので、彼女を慰めるのは俺の仕事になりそうだ。
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