夜ぞふけにける

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「早く歩きなさいよ! 花火に間に合わなくなるでしょッ」  前を浴衣姿で歩きながら振り返った『女王様』は、夜目にも判る程目を吊り上げていた。 「はいはーい」  等閑に返事をした俺を、スゴイ形相で睨みつけてくる。 「いや、ホント。目一杯急いでマスから」  掌を突き出して言った俺に満足したのか、俺の姉――織田沙耶花は前 へと向き直った。  そして再び、隣をエスコート宜しく歩いている磐木祐志へと腕を絡める。 「ホント、トロいんだから」  ねー、と同意を求めるように祐志へと首を傾げる。それに応えるように、姉貴を見返した祐志が微笑んだ。 「誰の仕度が遅かったんだっての!」  ――ってか。俺の親友を取るなよ!  小声で呟いた俺の言葉が聞こえたのか、俺の隣を歩いていた打田潤一が苦笑を浮かべていた。 「………聞こえました?」 「まあね」  更に小声で訊いた俺に、潤一さんも手を口元に添えて囁くように返してくれる。――こ の人の、こーいうノリが結構好きだった。 「なんかね。この旅行の為に、お母さんから着方を教えてもらったらしいよ」
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