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「なんかね。 『いつまでも履かないなら、捨てちゃえーッ』 って泣き喚きだして」
俺がそう言うと、潤一さんはププッと吹き出した。
「……それって。履いてくれるの、楽しみにしてたんだ?」
「今思えばそうなんですけど、俺は俺でショックで。母さんが間に入って 『遠足の日に履いて行くって言ってるのよ』 って言ってくれたんですけど、全然おさまんなくって」
潤一さんは「それは大変そうだ」と言いながらも、沙耶花らしいけど、といつまでも笑い続けている。
「いや、笑い事じゃないですよ。俺、楽しみにしてたのに。結局その次の日からすぐ履いて。なんかそれ以来トラウマみたいになっちゃって。 『人から物を貰ったらすぐ身につけないと』 って思うようになって。――まあ、物くれた人はみんな喜んでくれるんですけど」
「弘人君は、いい子だね」
俺を見返した潤一さんが、感心したように微笑む。
まるで子供を褒めるような言い方に、頭でも撫でられるんじゃないかと思った。
「そんな事は」
ないですと言いかけて、その視線に気が付いた。
「弘人ーッ!」
鬼のような形相をした姉貴に呼ばれる。
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