第1話 瞳と現実の関係性

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                 前口上  ーー古来より、本来『人間』…『日の本の民』は全ての民が等しく『目には視えない者達』を『知覚』する力を持っていた。 彼らは何処までも晴れ渡った鮮やかな蒼空の向こうに『高天ヶ原』を見、野に咲く…ともすれば見落としてしまいそうな小さな一輪の花にも御魂を感じ、真夏の薄暮…殴り付ける様に激しく降りつける雨粒と、同時に轟く雷鳴の中に神の怒りを聞き。 或る者はその感動を和歌にしたため、また或る者はその恐怖を畏敬を込めて草紙に託し、ときには御霊を鎮める為の祭を行い、量りきれない程の友愛と、それと同時に言葉に現せない程の畏怖を抱きながら、我々日の本の先達達は、『目には見えない世界の住人達』と生きてきた。 生きとし生けるモノ…それは有機・無機を問わず。 形在るモノ全てに、古代の民達は魂魄を見出だし、名を付け、折り合って生きてきたのだ。 しかしーー何時からだろうか。 この日本が…いや、地上の全てが、人間だけの占有地ものになってしまったのは。 昔人達が恐怖と同時に畏敬の念を抱いた宵の闇は今や、真夜中でも消えない電気の白い光に塗り潰され、古代の旅人達が疲れと 共に神に見える僅な期待を胸に灯して踏み締めた、八百万の神々の社へと続く道程は固く冷たいコンクリートに覆われ。 地上がより便利に、快適に、人間にとって暮らしやすくなる一方で、『目には見えない世界の住人達』の事は遥か歴史の彼方…遠い過去の記憶、昔の遺物として、忘れ去られ、或いは蔑ろにされてきた。 まるで、もう、この地上の何処にも『彼ら』の存在出来る安息の場所は有り得ないかの様に……。 だが・・・色とりどりのネオンサインがまたたく都会の夜の奥の奥ーー真白に照らす電球の光すら届かないその最奥に。 一筋の光すら射さない深い宵闇の世界が未だ遺っているとしたらーー。
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