第2話 凶相の彼女と不幸な僕の狂躁曲(カプリッチォ)

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 切欠は些細なことだった。 『目の前の彼女が笑っていた』 ただ、それだけのこと。 だが、それは彼ーー『近藤 光流』にとっては、とても驚くべき、かなり珍しい現象だったのである。 それもその筈。 何故ならば、光流と同じ職場で、やはり光流と同じくアルバイトとして働く彼女ーー『結城 葉麗』は、西洋の愛玩人形ビスクドールの様に整った容貌をもつ、白磁の肌に切れ長の目元も涼しげなかなりの美少女なのだが、しかし、目の前でどんなジョークを言おうが笑わないーーそれどころか、ピクリとも表情を変えない、所謂、『能面』の様に無表情な少女として有名なのだ。 その、店では仲間達から陰では『鉄面皮』やら『鉄仮面』と揶揄されている彼女がーー今、笑っているではないか。 しかも、楽しそうにスキップまでして。 言うのが遅れてしまったが、此処は東京ーーしかも、その大都会東京のオフィスビルが一同に集まるビジネスの中心地ー大手町。 その地下を走るとある地下鉄の構内のホーム。 そこに、彼らはいるのである。 時刻は家路を急ぐ企業戦士達サラリーマンがホームに溢れる夕方の6時。
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