第2話 凶相の彼女と不幸な僕の狂躁曲(カプリッチォ)

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 黒や灰色のジャケットで覆われた、後ろから見たらまるで誰もが同じ様に見える、そんな背中の大人達でホームが覆われるーーそんな時間に、余りに場違いな程めかしこんだ少女が一人。 何時もは無造作にひっつめられ、後頭部でただ飾り気なく黒いヘアゴムでポニーテールに結わえてあるだけであった長い黒髪は、今や綺麗に編み込みとクロス編みを交えた上でツインテールに結ばれ。 更に、その結び目には目にも鮮やかな緋色のリボンが一つずつ結び付けられている。 加えて、特筆すべきはその服装だ。 アルバイト先での彼女の服装と言えば、基本的にはパンツスーツのみで、上は無地の白いブラウス、下は紺にグレイの縦のストライプが入ったコットン生地のパンツという…至って普通、と言うかそもそも少々派手であろうと私服可である光流の職場に於いてはかなり地味な服装なのだが。 果たして、今の彼女はどうしたことだろう。 トップスは、首のかなり上の部分から胸元まで白いレースが縫い付けられた上品なカットソー、下は落ち着きのあるオリーブカラーが目を引くーー丈の長さがバックよりもフロントの方が短い前後非対称の、所謂、フィッシュテールと呼ばれるタイプのスカートなのである。 しかも、林檎の様に真っ赤なダッフルコートをそのやや細目な躰に羽織り、ご丁寧に大きな花束なぞ持って。 スカートよりもやや暗めのオリーブカラーのロングブーツの踵を鳴らしながら、まるで踊る様に軽やかに、いや、ともすれば今すぐに踊り出してしまうのではないか、そんな風にすら見える、羽の生えたかの様な足取りで、一人ホームを進んで行くのである。
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