第2話 凶相の彼女と不幸な僕の狂躁曲(カプリッチォ)

4/5
前へ
/554ページ
次へ
 その余りの変わり様に光流は一瞬我が目を疑ってしまった程だ。 しかし、それにしても、やはりーー目立つ。 これ以上無い程目立つ。 思いきり目立つ。 勿論、彼女がその腕に抱く純白のピンポンマムの花束もとても目立っているのだが。 それ以上に 『やけにめかしこんだ若い少女がビジネス街の駅のホームを楽しそうにスキップしている』 それ自体が非常に目を引くのである。 道行く通行人の中には彼女の余りに楽しそうな様子に思わず立ち止まり、胡乱げな眼差しを送る者達までいる。 まぁ、実際、その様に良くも悪くも彼女が目立ち、人目を引いていたからこそ、光流は彼女の存在に気付いた訳なのだが。 しかし、彼女のこの様子は本当にどうしたことだろう。 以前、職場で、彼女が入店間もない頃…靴を脱いであがれる、座敷タイプのファミレスで行われた彼女の歓迎会ですら一切ニコリともせず、歓迎会の間中ずっと正座をしてひたすら烏龍茶を煽っていた彼女が。 バイト仲間同士で開いたカラオケ大会で三時間ずっと全く歌を歌わずただひたすら無表情にタンバリンを鳴らしていた彼女が。 今は幸運にも他人やお客と顔を合わせない事務職だが、もし接客にまわされたら確実に愛想のなさ…というか最早恐怖すら覚える鉄壁の無表情で即刻クビにされそうなあの彼女が。 今、目の前で、笑っているのである。
/554ページ

最初のコメントを投稿しよう!

394人が本棚に入れています
本棚に追加