眼鏡越しの憂鬱

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レンズが重いからと、メガネを嫌煙していた事を後悔した。 教室に入り、席についた神崎くんを自分の席から初めて直視する。 以前はぼんやりとしか見えなかったその姿が、この距離からもはっきりと見える。 友達と笑い合う顔も、授業を受ける真剣な横顔も、どんな神崎くんも……キラキラと眩しく輝いて見える。 好きだなぁ、と思う。 この笑顔を私へ向けてくれたら、どんなに幸せだろう。 よく見えていなかった頃よりも、神崎くんを好きだという気持ちをはっきりと確信する。 そして、それは見えなかったものも見えるという事。 ふ、と動いた彼の視線の先に私はいなかった。 それはほんの一瞬で、気のせいだと言われればそうかもしれない。 でも。 神崎くんの表情が、仕草が、気のせいではないと私へ言うんだ。 だって、私が神崎くんを見ている時と同じ表情をしていたから。 今までは気づけなかった事も見えてしまう、このレンズが疎ましい。 「…………」 メガネを掛けているのに、何故か視界がぼやけた。 胸が苦しくなり、産まれて初めて黒い感情が湧き上がる。 私はそっとメガネを外し、机へ置いた。 再び輪郭を無くした世界で私は思う。 見える、という事は時に残酷なものまで見えてしまうものなのだと。 それでも性懲りもなく、明日もメガネ越しに貴方を見つめるのだろう。 切ない恋心と、報われないことを突きつけられることへの憂鬱。 メガネを掛けることによって生まれた、17歳のジレンマ。 【了】
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