眼鏡越しの憂鬱

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「おはよう、逢坂!」 学校の校門を通ろうとした時に後ろから肩を叩かれた。 心臓が跳ねる。 この声は、神崎くんだ。 「あれ? メガネ?」 私のすぐ隣まで来て顔を覗き込んできた。 途端に身体中の血液が頬に集中する。 首に巻いたマフラーを鼻が隠れる程にたくし上げ、赤くなった頬を必死に隠した。 「うん、昨日買ったんだ。」 「ふーん。なんか新鮮。」 そんなにまじまじと見ないで欲しい。 せっかくメガネを掛けているのに、私が神崎くんを見れないじゃない。 「あ、そこ段差……」 不意に腕を取られた。 何も無いところでもよく躓く私を、神崎くんはよく気にしてくれていた。 「うん、大丈夫。見えてるから。」 「そっか……! もうよく見えてるんだもんな。」 そう言って、腕から手を離した。 そっか。 これからはこうやって心配されることもないんだ。 そう思うと少し寂しくなった。 神崎くんは困ってる人を放っておけない人だから、視力が悪い私に声をかけてくれていただけで、それがなくなったらもうこうやって話すこともなくなるのかもしれない。 下駄箱も、廊下も、教室の黒板も、友達の顔も。 見慣れていたはずの景色が、まるで初めて見るもののように見える。 大袈裟かもしれないが、世界が変わったみたいだ。
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