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残っている。あの声が。あの悲鳴が。
今も耳から離れない。ホラー映画とは違う。恐怖感がまったく違っていた。あれはリアルな女性の悲鳴だった――と思う。
その時だった。
「きゃああぁっ?」
背後から小さな物音がして、思わず悲鳴をあげてしまった。後ろを見たが何もない。ここまで登ってきた石段が並んでいるだけだ。僅かな街灯にぼんやりと照らされていた。
千月茜音(ちづきあかね)は、小さく吐息をついた。
「風で木葉が擦れただけだろ? いちいち変な声出すなってえの」
「おにぃ、うっさい」
茜音は容赦なくいった。兄の千月淳吾(ちづきじゅんご)を調子に乗せると、口煩く面倒臭いからだ。
茶色に染めた短髪を掻いている。ソフトモヒカンはそこそこお洒落だと思うが、茶髪は淳吾には全然似合っていない。一度指摘したが適当に流された。黒に戻す気はないらしい。
「うっさいいうな。お前がいうからついて来てやったのに」
「いいじゃん。自称オカルトマニアでしょ? それより、えーすけくんありがとーね。わざわざ付き合ってくれて」
茜音は、淳吾の友人である、二平栄輔(ふたひらえいすけ)に顔を向けた。
淳吾と違って、黒髪ストレートでしかも端正な顔つきだ。切れ長の目をメタルフレーム黒縁眼鏡の奥に隠している。
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