借り物競争

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「頭脳だけでは無い……俺の力を見せてやる」  あらゆる事を瞬時に見抜き、さらに行動力のある鈴木は、意気揚々と借り物競争の場へ向かった。  そして、借り物競争がスタートする。  鈴木は前を走る同僚の、すぐ後ろを走った。 「これぞ、スリップストリーム。同僚の体を盾にして、風の抵抗を受けずに体力を温存できるのだ」  いきなりの戦術に、佐藤リーダーは惜しみない拍手を送っている。  鈴木は余裕の表情で、借り物が書かれたメモ書きを手に取った。 「……カツラ? ふふっ、真実を見破る能力を発揮する時が来た」  辺りを見渡し、一目散に伊藤課長の下へと走る。 「課長! その頭に乗っているものを貸して下さい」 「……何の事だね?」 「それですよ。私の目は誤魔化せません」    鈴木は手を伸ばすが、伊藤課長は軽やかに身をかわし、やがて膠着状態となった。  このままでは……鈴木の頭脳に様々な考えが駆け巡る。 「あっ、課長。美人秘書の山本さんが手を振ってますよ」 「何っ!?」 「隙あり」  華麗なフォームでカツラを掴み、そのまま鈴木は爆走した。  しかし、すでに他の走者はゴールしている。 「何だとっ!?」  その場に膝を突き、カツラを被って空を見上げた。 「まだだ……まだ負ける訳には……」  すると、いつの間にか目の前には伊藤課長の姿があった。 「覚えておくよ、鈴木君。ボーナス査定、楽しみにしていたまえ」 「ぐはっ」  倒れてしまった鈴木に、チーム・メガネが駆け寄る。 「申し訳ございません……佐藤リーダー……」 「恥じる事は無い。鈴木は新たな未来を切り開いてくれた」  鈴木は微笑み、虚ろな目を田中に向けた。 「後は任せたぞ……田中……」 「大丈夫、私に任せて」  受け継がれる意志。頭脳と美貌を兼ね備える田中は、静かに闘志を燃やした。
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