第五章 決着の刻

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 そのとき、俊輔は何も言えなかった。拷問トーナメントの試合を控え、自分自身が生きて家に帰れないだろうと思っていたからだ。  でも、今は言える。生きろ、と。生き抜けと。世界には悪意しかなくても、生きていく価値はあるんだと。  思った。俺も戦ってみよう。トーナメントでどこまで勝ち続けられるかわからないが抗ってみよう。あのアディショナルタイムで生きることにしがみついたように。 「ねえ、お兄ちゃん、やっぱりスイーツでも食べていかない?」  腕を組んだ梢が、俊輔の顔を見上げた。久々に見る妹の笑顔だった。 「いいけど……おまえ、部活サボってから太ったんじゃないか」  ふん、と梢が口をへの字に曲げる。 「お兄ちゃんはもっと食べた方がいいよ。最近ガリガリじゃん。お母さんが心配してたよ、中二病なんじゃないかって」
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