第一章 失踪事件

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 しかし、俊輔は見逃さなかった。その目が辺りを素早くうかがったことを。ここは路地裏とはいえ、池袋の繁華街だ。いつ、巡回中の警察官に出くわすかわからない。それをこいつは警戒している。  裏を返せば、警察に捕まって痛い目にあった経験がある。前科というのは積み重なる。初犯より二度目、二度目より三度目の方が罪が重くなる。 「シンゴ、やめろ」  ウィッグの金髪が短い声で制する。 「こんだけなめられてやめられっかよ」 「そういう話じゃねえよ」  二人の間で仲間割れが始まる。チャンスだ。 「さっき、彼女が歩く方向の前に立って、塞ぎましたよね。あと、荷物にも触った。肩に手もかけた。あれだけで、立派な迷惑防止条例違反ですよ」  ずっとウィッグの目を見て話し続ける。攻めるべきはこいつだ。こいつには守るべきものがある。弱点は徹底的に突く。食らいついたら離すな。
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