序章

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「はい、頑張って」 そう言って渡された紙。 俺の目にまず飛び込んできたのは赤い29という数字だ。 紙の数字を見たまま自分の席へと戻る。 29 間違いなく29だ。 先生が92と書き間違えたんだと思いたくて○×の数を確認する。 ……うん、間違いなく29である。 周りの奴ら叫びや嘆きが段々と遠のいていく感覚がした。 前の席の長野から答案が回ってくるが俺は相変わらず視線は29という数字に釘付けだ。 渡す時に長野が俺のテスト用紙に視線を落としたが俺はそんな事にも気にしていられない。 どこか間違って×になったんだろうと、必死に自分の答えと答案用紙を見比べる。 先生の計算間違いという事もあるかもしれない。 ……おかしい どこをどうやっても29点にしかならない。 こんな事があり得るというのか。 いや、ない。 必ずどこか抜け道があるはずだ。 そう、抜け道が。 考えろ。 考えるんだ霧島巡(めぐる)。 テスト用紙を睨みつける俺を長野が優しい目で見ているがお前後でおぼえてろよ。 「全員に解答回ったかー?これから解説始めるから30点以下の追試のやつはちゃんと聞いとけよー」 「……だってさ」 「…………だから、お前その目やめろ」 この日、俺の社会のテストの追試が決まった。
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