遠距離(仮)の日々4

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 あ。  懐かしい笑顔を見かけた。雑誌の巻頭カラーで一面に大きく全身写真が載っていた。インタビューを含んだ4ページにわたる特集記事。  10年前の恋人の姿を久しぶりに目にして、祐樹の口元が知らず微笑む。  海外の大きなフラワーショーの金賞を獲ったという見出しに、防水エプロンをつけてバケツに入った大量の花を活けていた姿を思い出した。  生け込みをするときはシャツにジーンズというラフな姿で、見とれるような手さばきで花鋏を操っていた。  けれども写真のなかの元恋人は、光沢のある濃いグレーのフォーマルスーツに身を包み、トロフィーを持ってこちらに向かって上品な笑みを浮かべている。  東雲幸成(しののめこうせい)という名で世間に通っているが、本名はゆきなりと読む。  今年で38歳になるはずの彼は、凛とした佇まいで、彼が活ける花のように涼やかな華やかさをまとっていた。
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