現実

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ーーーーーーーーーーーーーーー  遅くまであゆむと遊んでいたにも拘らず、意外にも寝起きは良かった。今日は大学に行かなければならない。……それとあゆむの宿題もこなさなければ。あくまで気が向いたらだが。  歯を磨き、顔を洗い、適当に髪を梳かす。朝食は食べない、いつものことだ。  二限の講義に間に合うように俺は部屋を出た。冬の空気が瞬間的に肌に貼りついた。  「さむ……」  小さく呟きながら鍵をしめていると。あまり聞きたくない音がすぐ近くで聞こえてしまった。  即ち、玄関が開く音。それも隣。件の隣人の部屋の玄関であった。  思わず視線をそちらにやってしまい、玄関から出てきた隣人と目が合ってしまった。たしか大津さんと言っただろうか。  茶色に染めたショートカット。そして目つきが悪い。俺が苦手な人間の見た目だ。  何故か少し硬直。気まずい時間が数分流れて、俺はあゆむに背中を叩かれたかのような感覚に押されてしまい。  「あっ……こ、こんにちぁ」  「は?」  盛大に噛み倒してしまった。彼女もやはり気まずそうに止まったままである。  …………耐えられなかった。俺は急いでその場を離れ、駐輪場の原付に飛び乗った。  完全にやらかしてしまった。これから顔を合わせる度に気まずくなってしまう。確か彼女は俺と同じ大学の学生だったはずだ。キャンパスで遭遇する可能性も十分にある。  (あああああもう何やってんだ俺!! 何やらせてんだあゆむ!!!)  原付をできるだけ飛ばして忘れようとするも、冷たい空気が顔を突き刺すだけであった。  その夜。  ―――― ayumu00 がログインしました――――  その通知を見てすぐに、俺はチャットアプリを開いていた。  ―――― Higuma831『おいおまwのせいdsぞどうしてくれる』  句読点なんて打っている暇は無かった。打ち間違えも訂正する余裕は無かった。  ―――― ayumu00 『どうしたどうした』  そんな読みづらい文章でも、一応は通じているようで。呑気にあゆむ。  俺は今日の出来事を話した。『お前が言ったから』とか『お前が言ったように』という一文を忘れないように。  ―――― ayumu00 『なんで挨拶だけなんだよww』  俺の必死の報告を受けて、あゆむの反応はまず『笑』であった。
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