現実

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 ―――― Higuma831『笑いごとじゃないだろ……』  げんなりした様子を表そうと『……』なんて付けてみるが。あゆむには関係がないようだ。  ―――― ayumu00 『まあでも頑張ったじゃねえか』  唐突に真面目な感じにシフトする。ポンッ、と送られてきて、またポンッ。  ―――― ayumu00 『一歩踏み出すのが大事なんだよ。それだけで世界が変わるかもしんねえし』  カチャカチャ、とキーボード。  ―――― Higuma831『世界って大げさな……』  俺はそう言うが、しかしあゆむは大本気なようで。  ―――― ayumu00 『お前のことだよ。お前が変わるってことはお前の世界が変わるってことだろ?』  なんて、少し説教じみたことを言ってくる。反論なんてやろうと思えばいくらでもできるのだろうが、不思議と納得したい気分になる。  ―――― Higuma831『……まあ、そうだといいけど』  歯切れの悪い言葉で俺は逃げた。逃げた先には、あゆむ。  ―――― ayumu00 『じゃあ次はちゃんと言えるか?挨拶じゃなくて』  チャットの向こうで、あゆむが少し笑っているのが見えるが。見ないふりをしてため息をついた。  ―――― Higuma831『いやあ、今日いきなり噛んじまってすげえ恥ずかしかったんだよ。だからなんか気まずくて……』  と。こんなことを言っても、あゆむは『関係ない気にするな』なんて言ってくれるのだろうか。さすがにその言葉だけで頑張れるほど俺も単純ではないが、しかし少し期待をしてしまう。  が、しかし。なかなか返信は来なかった。数分待って、届いたのは。  ―――― ayumu00 『噛んだ……?』  だけ。  もしかして俺が隣の人に噛みついたとでも思っているのか。さすがに俺はそんな馬鹿ではない。  ―――― Higuma831『噛んだって言葉のことな。こんにちあーみたいな感じで言っちゃったんだよ。絶対俺変な人だと思われてんじゃん』  そしてまた数分。どうかしたのだろうか。『なんかあったか?』と文章を作って、送信しようとしたその瞬間。  ポンッ、と。鳴った。そこには短く、そして思わず首を傾げたくなる文章があった。  ―――― ayumu00 『今からそっち行く』  は? と、固まっていると。  ピンポーン。チャイムが鳴った。
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