千歳

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§ その後 それから一、二年の間に、村人の半数がいなくなった。豪雨の際の濁流に巻き込まれたり、土砂崩れで生き埋めになったり、さらには山火事で死ぬ者もいた。   数年後。 村はようやく落ち着きを取り戻していた。   かつての千歳の遊び仲間の子供たちは不思議な人影を見ることがあった。例えば子供らが遊んでいる時。気が付くと一人、綺麗な赤い着物の少女が紛れている。 また別の時には、子供に襲い掛かろうとした山犬が、赤い着物の少女が現れた途端に脱兎のごとく逃げ出したこともあった。 また別の時には、川で溺れそうになった子供が岩の上に救い上げられた。話によると、引き上げられた時に赤い袖を見たのだという。   かつての旧友たちは、それが千歳であると噂しあった。子供達も、見知らぬ少女をいつしか親しみを込めて「ちーちゃん」と呼ぶようになった。   『ちーちゃんに会うには、隠し鬼をするといいよ』   いつしかそんな噂が、子供の間に広まっていた。 隠し鬼をしながら、鬼役の子が「ちーちゃんどっちだ」というと、ちーちゃんが目の前で手を叩くのだそうである。それを捕まえると、ちーちゃんが鬼になる。 鬼になった千歳──ちーちゃんは、普段は目に見えない。だから、大抵はちーちゃんが居るかのように振る舞うだけだった。   それでも時折、鬼になったちーちゃんが子供らの手を掴む時があるらしい。 子供らによると、腕にほんのりと温かい感触が残るのだそうである。  
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