マヨヒガ

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マヨヒガ

§ 深山   黄金色の銀杏、燃えさかる火の如く赤く染まった楓や欅(けやき)、鮮やかな紅色の檀(まゆみ)、そして常緑樹の織りなす深山の光景を目にした者は、どんな画匠の手にも描き切れぬ複雑精妙な美しさと迫るような息吹にしばし言葉を失うのが常であった。   その山間を縦一列に進む四人の男達の姿があった。先頭はまだ十五、六くらいの少年である。いかにも農村出身のような垢抜けない風貌といでたちだが、四尺ほどの短槍を手にしている。   後続するのは甲冑に身を包んだ侍たちであった。既に戦を終えた後らしい。手足に負った傷口を布で縛り、痛みを堪えながら歩みを進めている。敵兵を警戒しているのか、皆一様に無口であった。   ふと、先頭の少年が立ち止まった。何事かと顔を上げた侍達の目の前に、忽然と一軒の屋敷が姿を現していた。屋敷を囲む漆喰の塀は高さ八尺ほどもあり、その向こう側に屋敷の屋根が確認できる。そして、正面の門扉は固く閉ざされていた。  
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