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扉を開けた筈の人物はどこへ消えたのか。そんな疑問を皆抱きつつ、彼らは吸い寄せられるように扉に近づいて行く。門を潜った時、越えてはならない領域に足を踏み入れたのだという直感が彼らを襲ったが、それを口にする者はいなかった。
邸内は耳鳴りがしそうな程に静まり返っている。
目の前には書院造風の武家屋敷。その玄関口まで四人は恐る恐る進んだ。玄関の板戸は開かれたままになっている。内部を覗くと、薄暗い廊下が続いていた。
「誰か!!誰かいないか!!」
秋月が再び声を上げるが、返事は無かった。
だが、先ほどから男達は奥から炊きものや肴の香りが漂っていることに気が付いていた。
「飯の匂いがする。誰もおらぬなどありえぬ」
「かくなる上は踏み込んでみるか」
年長の武士──川間兵吾に促され、源作が屋敷内の様子を探ることになった。源作は恐る恐る廊下を進んでいく。目の前は薄暗く、一歩足を進めるごとに奥で息を潜めている何かに近づいて行くような気がして仕方なかった。
そして廊下を進み続けて、左手の襖の隙間から明かりが漏れていることに気が付いた。食べ物の匂いもここから漂ってくるようだ。奇妙なことに、誰の声も気配もない。試しにもし、と声を掛けてみたが返答はない。そこで源作は意を決して襖に手をかけ、つつ、と開いてみた。
襖の向こうには座敷が広がっている。座敷は十畳の広さがあり、縁側の向こうに庭を眺めることが出来た。
その部屋の中央には、四人分の食事が用意されていた。四つの膳には肴と酒、大盛の白米が白い湯気を立てている。
源作の報告を聞いた侍たちは、我先にと屋敷に入りこんでいった。その背後で、屋敷の門がいつの間にかに閉ざされていたことに何故か誰も注意を向けなかった。
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