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§ 秋月左門
「早良殿、遅うござりますな」
「うむ・・秋月、見て参れ」
「ははっ」
川間殿に勢いよく返事をした俺は、部屋を出て廊下をずんずんと歩いて行った。酒のせいもあってか、気持ちが大きくなっていた。なに、どうせ酔いつぶれてどこぞの部屋で眠りこけているに違いない。からっ、からっと次々に襖を開いて中を確かめる。
一体そうして何部屋見て回っただろう。酔いの廻った頭でも、流石にこれだけ部屋数があるのはおかしいと気が付いた時──
目の前の部屋に、亡き友、岩間源之丞の姿を認めた。
奴との付き合いは幼き頃にまで遡る。童の頃から、奴は仲間内で既に統率者としての資質を発揮していた。俺は常に奴の二番手に甘んじていたのだ。そして奴は、俺が密かに思い続けていた由良をも娶ってしまった。
由良は美しい女だった。侍大将の娘に相応しい女だった。その佇まいは凛として、雪の如き白い肌、濡れ烏の如き黒髪、その舞いは鶴の如く。
その由良も、いつしかめきめきと頭角を現していく岩間に惚れこむようになっていった。それは傍目にも分かる程に・・。
「俺は・・・俺は悪くない。お前が・・・全てを俺から奪っていったのだ!!」
兜の下から覗く髑髏が、辛うじて残った皮膚を貼りつかせてカタカタと笑った。
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