マヨヒガ

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そうだ。俺は先だっての戦で奴を殺し、巧妙に誤魔化した。逃げ落ちた敵を追い掛ける最中、丁度誰の目にも入らぬ林の中で小太刀を抜き、脇腹に突き立てたのだ。奴は驚愕に目を見開いて俺を見つめたまま崖から転がり落ちていった。俺は奴が敵と斬り合いの末殺されたことにした。   「死人は大人しくあの世で眠っておれ!!」 刀を振りかざした俺に、髑髏武者が刃向かってきた。負けてなるものか。死んでなるものか。由良は俺が貰ってやる。俺は若侍の中でも二番手に強かった。功績もあった。   「岩間、貴様などに由良は渡さん!!また俺に殺されろおお!!」 大音声で呼ばわった刹那、俺は山にいた。岩間を突き殺したあの場所だ。   「今のお言葉・・どういう意味でしょうか?」 背後から声がした。 ああ、声の主は・・・振り向かなくても分かる。由良だ。   「やはり、あなたが殺したのですね。我が夫を・・・」 ゆっくりと振り返る。そこには冷たい目で俺を見つめる由良と、護衛の武士が数人。大方、岩間が死んだ場所を見ておこうと訪れたのだろう。 「秋月殿、神妙になされよ。申し開きは軍目付・大飯様に。今は大人しく縄につかれよ」 取り巻きの侍が慎重に俺に近づく。   「く・・ふふふ・・・」 引きつったような笑いが漏れる。俺はもう一度由良の顔を見た。どこまでも厳しい目で俺を睨むその美しい顔を目に焼き付ける。由良は岩間に向けたような優しい表情を俺には向けてくれない。分かっていたのだ。俺が岩間の代わりになどなれはしないことなど・・   「もはやこれまで・・・さらばだ」 俺は太刀を自分の脇腹に突き刺し、真っ逆さまに崖を転がり落ちた。  
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