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§ 川間兵吾
「うむ・・・わしも厠に行きたくなった。丁度良い。儂も様子を見てくる」
すっかり酒が廻った川間兵吾も立ち上がった。
厠で用を足した川間がご機嫌で戻ろうとした時、庭に何かの気配を感じて廊下で立ち止まった。庭の隅に何かがいる。
既に陽は沈んでおり、誰が点けたか石燈籠の明かりで辺りが柔らかく照らされている。そこに、赤い振袖の少女が佇んでいた。まだ十を少しこえたくらいだろう。肩のあたりで短く切り揃えた髪、白くて丸みを帯びた顔。そして身に纏った赤い振袖──
そこで、着物の柄に違和感を覚え我知らず凝視する。
着物に縫い込まれた花弁が、楓の葉が、なんと風に吹かれているかのように布地の中で舞い散っているのだ。そして、彼女のぐるりにはひらひら飛ぶ蝶の群れ──青や赤、黄色、白など様々な色の燐光を放ち、まるで親を慕う幼子のように少女を取り囲んでいる。
「おのれ・・・化生の者か・・!!」
川間は刀を抜き放ち、少女に走り寄るが早いか切りつけた。
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