千歳

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§ 千歳   ある日、千歳は村の子達と山の中腹にある小さな神社に向かった。その神社はとうに打ち捨てられていて、誰がいつ建てたのかも、御祭神すらも知る者はなかった。   苔生した鳥居の他には、壁板の所々に隙間が空いた小さな祠くらいしかなかった。申し訳程度の境内も苔や草で覆われていて、子供の遊び場としては望ましいものではなかった。 しかし遊ぶ場所も少ない村のことである。大人の目を盗み、村の有力者の子供が先導すると、皆我も我もと付き従った。   子供たちは走り辛い境内の中で、目隠し鬼をして遊び始めた。鬼になったのはまだ年も幼い童だった。 「鬼さん、こちら」 子供達は盛んに声を上げ、手を鳴らしては際どい所で追跡を躱す。 幼さもあって他の子を掴まえることが出来ない様を千歳は見かねたらしい。彼女は少年のすぐ前で手を叩き、わざと捕まって鬼になった。   千歳は目隠しをしたまま、手を叩く音を頼りに歩みを進めた。しかし、一緒に遊んでいた子らは首を傾げた。彼女は明らかに誰も居ない方向に向かって歩いている。その先には朽ちかけた祠があった。   「ちーちゃん、そこ危ないよ」 一緒に遊んでいた子供達が声を上げて止めようとしたが、彼女は歩みを止めなかった。そして何かに躓き、頭から倒れてしまった。   ゴッ   という嫌な音が響いた。子供たちは真っ青になり、一斉に娘の元に駆け寄った。千歳は地面から突き出た岩に頭をぶつけたらしく、気を失っていた。   少年らは頭から血を流す千歳を見て青ざめ、慌てて彼女を抱えて村に戻り、薬師の元に運んだ。薬師は難しい顔をして彼女の様態を調べていたが、傷口を洗って塗り薬を塗り、薬草を煎じて千歳に飲ませ寝かしつけた。  
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